それもつかのまで、翌一五日にはN市場に連動して急落。
東京外国為替市場でも一ドルU一二三円台になった。
たしベテランのN銀職員も、「N銀の金融政策は、総裁がG5やG7に出掛けて帰ってくるたびに、いつのまにか軌道修正されている」と嘆く。
さきの行内誌「にちぎん」が掲載している、N銀職員の入選論文の直前に発表し、他の主要先進国に率先して、アメリカに「政策協調」の忠誠を示すものだった。
大蔵省「銀行金融年報」は、年度ごとの銀行行政をまとめた記録だが『八七年版(八七年一月刊)は、腕曲ながらつぎのように述べている。
〈わが国としても、為替相場の安定を確保していくためには、アメリカをはじめとする主要先進国が為替相場安定に向けて一層緊密に協調を図っていくことが是非必要であるといえよう。
もとより金融政策の運営は各国の中央銀行がその自主的判断に基づき行うべきものであるが、一月の公定歩合引下げは、実際の政策をもって協調の趣旨を他の主要国に示すことがきわめて重要であるという点も十分考慮して決定されたものといえよう〉N銀は、公定歩合の引き下げとともに、都市銀行が優良大企業に貸し出す長期プライムレートなどを低めに誘導し、史上最低の四・九%となった。
マネーはより高い金利や利ざやを求めて動くが、日本のマネーは金利の高いアメリカに流れて、その「双子の赤字」の穴埋めの役割を果たしている。
だが、アメリカでの金利の低下によって、マネーがアメリカから逃げ出さないために、それをさらに下回るよう日本があいついで引き下げたのだった。
・ここでふれている中央銀行の〈自主的判断〉は、後述するN銀の政府と政治からの独立性と中立性ともかかわる問題である。
だが、N銀の〈自主的判断〉どころか、日本の金融政策の独立性そのものを放棄し、アメリカへの一方的な「政策協調」のために、ドル買い・円売りの為替介入や金利操作をつづけてき一つ「今、本行に求められているもの金融政策の独立性の観点から」も、重要な指摘をしている。
後述のように大蔵省N銀課になり下がっているN銀の内部でも、まだ健全な職員の目が生きつづけていることの証明であり、その要点だけでも紹介しておこう。
〈金融政策の独立性を考える場合に、従来から議論されてきた政府、政治からの独立性に加え、外国からの独立性という新しい視点も必要になってきた〉〈最近、金融政策の独立性の問題がクローズアップされているのは、貿易不均衡是正策の一つとして実施された数次にわたる公定歩合の引下げが、米国の圧力さらには財政再建問題を抱え、祇極財政を打出すことのできなかった大蔵省の圧力によるものとの報道が多くされたことによる。
これは、単に日本銀行の力が弱体化しているという主張ではない。
マネーサプライの一段の高まりが予想され、物価への配慮は怠れない、との認識の程度の差はあれ一般に共通しており、そうした状況で金利を引下げるという決定をすることについて、N銀行は将来の責任を持つべきである。
言い換えると、万が一にもインフレを招来した場合は、N銀行が非難の対象となるとの警告である〉国民を犠牲にして、日本がアメリカに一方的にいくら「政策協調」しても、それで事態が解決するものではない。
ドルの下落の原因がアメリカの「双子の赤字」にあることは、いまや世界の共通認識になっている。
また、「双子の赤字」とはいっても、財政赤字は貿易赤字の「生みの親」の関係にある。
これも共通の認識になっており、「財界総理」のS英四郎経団連会長も、八八年二月の日米財界人会議合同運営委員会でつぎのように発言している。
〈そのような〔円レートが再高騰する〕事態を避けるためにも、米国が財政赤字と貿易赤字の双子の赤字、否むしろ親子の赤字といった方が適切かもしれないが、赤字改善のために一層の努力を傾けるよう米国の赤字肩代わりで総合収支は赤字〈ドル高是正〉による異常な円高は、国民の犠牲による日本の産業の「空洞化」をもたらしただけでなく、マネーの「空洞化」をももたらしている。
いったい、日本全体のマネーの動きはどうなっているのだろうか。
わが国の「国際収支統計」は、大蔵省とN銀が共同で作成し発表している。
N銀調査統計局「経済統計年報」(八八年三月刊)の統計を中心にしてみていこう。
いま、アメリカは、貿易赤字の責任を日本に押し付けて、牛肉やオレンジなどの農産物の自由化などを迫っている。
確かに、日本の貿易収支は、八六年度末で一六兆二三五○円の大幅黒字になった。
だが、これも、八六年度の輸出額をみると、大企業が製造している自動車や事務用機器などの機械機器で七四・四%までを占めている。
また輸出総額の五三・三%は、上位三○社で占められており、実際に輸出で儲けたのは、ごく少数の大企業にすぎない。
貿易収支と密接な関係にある貿易外収支(運輸、保険などの貿易付帯費用、海外投資収益、海外旅行費用など)の赤字八○五四億円、移転収支(贈与、無償援助)の赤字三七四九億円を引いた経常収支も、一五兆五四七億円の黒字だった。
レーガン政権の経済政策の破綻は、とめどもない軍拡や大企業への減税などが原因である。
アメリカの軍事費は、八一年のレーガン政権の誕生とともに急増し、八七年には一倍にふくれあがり、政府予算の約三割を占めるまでになった。
日本政府は、政治的にアメリカの軍拡を肩代わりしていく政策をとっているだけでなく、金融政策でも、国民や国家財政をも犠牲にして、アメリカに忠誠を示しているわけである。
しかし、貿易収支や経常収支は物資や役務の取引の収支であり、稼いだマネーや資産が、実際にどこへどう流れたかという一国の総合収支は、これらだけではわからない。
貿易収支と経常収支で黒字となった日本のマネーは国境を越えて、海外への直接投資や証券投資などの資本取引として流れているからである。
日本からの資本流失は、八一年以降急激に増え、八六年度の総合収支は七兆一五○億円もの赤字になっている。
マネー大国のマネーは、国民のふところには入ってこなかったわけである。
とくに銀行をはじめとした金融大企業の海外進出がめざましい。
日本の銀行の海外進出は、企業の海外進出とともに進展してきたが、それに輪をかけたのが日本政府による「金融の自由化、国際化」の推進だった。
その進出先は、N、ロンドンなどの主要な国際金融センターが中心となっている。
BIS(国際決済銀行)の調べによると、八七年六月末の世界の主要銀行の対外資産のうち、日本の銀行は二一二兆八四九六億円にも達して三五・四%を占め、トップとなっている。
この数字は、一位のアメリカの二・二倍、三位のフランスの四・一倍にあたる。
八六年の国民総資産残高四五一兆円に比べれば、その四七%に相当する。
また、日本から外貨証券(株式や公社債など)を取得する対外証券投資(許可・届出実績)は、取得の自由化措置とともに急増。
対外債券投資(ネット取得額)は、外為法の改正によって急増し、八六年度に一四兆九四九○億円となった。
また、対外株式投資(同)も急増し、八六年度には一兆六三○八億円となり、一挙に前年度の六・四倍になった。
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